教育・研究体制
学内では医学、生命科学、農学、数理科学(数学、化学、ケミカルバイオロジーなど)、コンピューターサイエンスの各分野から73名、独法研究所と企業から6名、及び他大学教員31名(海外30名)が参加して教員団を形成している。学生の主研究指導教員については、学生に希望調査を行い、本プログラムの研究指導担当教員でかつ学内に常勤する教員の中から決定する。副研究指導教員(国内、国外)の選択については、主指導教員決定後、学生と主指導教員が合議の上で他分野から決定する。原則として、大学と企業あるいは生命、医学、数理、情報の分野を超えて選択することが推奨される。
生化学・分子細胞生物学
細胞に、温度・pHなどの環境変化や栄養源飢餓などのストレスが生じると、それらに対応する細胞応答が起こることで「細胞の恒常性」が維持されます。私たちの研究室では、単細胞真核生物である出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いて、「遺伝子発現の転写後制御」と「細胞内シグナル伝達系」の観点から、細胞の恒常性維持の分子メカニズムの研究を行っています。具体的には、(1)酵母と動物細胞におけるRNA結合タンパク質による遺伝子発現の転写後調節機構、(2)RNA局在と局所的翻訳の制御機構、(3)小胞体ストレス応答の制御機構、(4)小胞輸送による前胞子膜形成の分子機構について、研究を行っています。
生化学・分子生物学
生物の「寿命(longevity)」とは何でしょう? 生きる期間は何が決めているのでしょうか? 私たちは寿命を決める遺伝子発現の仕組みを研究し、メチル化(メチル基[-CH3]を転移させる反応)が鍵を握っていることを突き止めてきました。その反応はタンパク質をメチル化するだけでなく、DNAやRNAも標的として寿命調節に関わります。多細胞生物の寿命を理解するため、マウスや線虫の遺伝学・生化学・化学の手法を駆使し、網羅的に遺伝情報を解析しながら標的を絞り込み、分子の実体に迫ります。私たちは寿命の研究を通して、生物がどのように生存していくのかを知り、人間の健康や生活の質の向上にフィードバックできるよう取り組んでいます。研究室では、学生ごとに独立したテーマを決めて、実験の プラン・遂行、学会発表、論文作成も丁寧に指導します。
免疫学
ヒトは病原微生物に対する生体防御機構としてきわめて精緻に統合された免疫システムを築き上げてきました。しかし、感染症は現代にいたってもなお人類にとっての最大の脅威です。一方で、免疫システムの異常は自己免疫病、アレルギーといったきわめて今日的な難治疾患の本質的病因ともなっています。また癌や移植臓器拒絶なども免疫システムに直接関わっている課題です。本研究室では世界に先駆けて、DNAM-1 (CD226), MAIR (CD300), Fcα/μR(CD351), Allergin-1, Clec10aなどの免疫受容体を発見し、これらが炎症性疾患、アレルギー、自己免疫病、がん、感染症などの難治性疾患の発症メカニズムに関与することを明らかにしてきました。我々の目標は、免疫システムの基本原理を明らかにし、これらの難治性疾患に対する革新的な分子標的療法を確立することです。
応用微生物学
微生物細胞の相互作用と多様性・集団性の関係についての理解と応用多様な微生物が集団を形成し、相互作用を及ぼすことで、集団としてのさまざまな機能を発揮することが明らかになりつつあります。このような微生物の集団は、環境中のさまざまな場面で私たちの生活と密接に関与しており、革新的な集団微生物の制御技術の創出が期待されています。 私たちの研究室では、多様な微生物の集団における1細胞の振る舞いや微生物間相互作用の解明に取り組みます。また、微生物の集団とその周りの環境や他の生物との相互作用にも焦点を当てることで、微生物が集団を形成することでどのように環境に適応するかを明らかにし、未解明な点が多い微生物の集団の全貌解明を目指します。
分子神経生物学
神経回路は膨大な数のニューロンがシナプスを介して結合したネットワークを通じて私たちの知覚、認知、行動などを制御しています。私たちの研究グループは、この複雑なネットワークがどのようにして形成され、神経系として機能を獲得していくのかを、遺伝子や分子のレベルで明らかにする研究を進めています。具体的には、軸索ガイダンス分子や細胞間シグナルの重要なモジュレーターである糖鎖の神経回路構築における役割を、主に遺伝子改変マウスを用いて調べています。分子生物学、生化学、発生工学、神経解剖学、神経行動学など多くの分野の手法や考え方を駆使しながら、神経系の本質に迫る研究を進めています。
発生生物学
生殖細胞形成機構の解明に挑む
生殖細胞は次代に生命をつなげ、体細胞は個体の生命を支えます。このように運命が大きく異なる生殖細胞と体細胞は、受精卵の分裂により生み出された姉妹同士です。では、どのように生殖細胞への運命が決定されるのでしょうか? ショウジョウバエの産卵直後の卵の後端には、「生殖質」と呼ばれる細胞質があり、それを取り込んだ細胞のみが始原生殖細胞(PGC)となり、生殖細胞に分化することができます。さらに、その生殖質を体細胞に取り込ませると、その細胞は生殖細胞になることがわかっていました。このことは、生殖質中には体細胞分化を抑制する分子(母性因子)と、生殖細胞への分化を活性化する母性因子が存在していることを物語っています。私たちは、このような母性因子の同定とともに、PGCの性決定機構の解明に挑んでいます。
分子細胞神経生物学
私たちのグループは、グリア細胞が神経の発生や分化、神経回路形成に対して、どのように作用しているのか、詳細な分子メカニズム解明を目指しています。また、グリア細胞の異常によって引き起こされる脳神経疾患や脳機能障害も研究しています。現在、細胞外微小核によって制御されるミクログリアの多様性制御、ミクログリア成熟とプリン代謝の関連、神経細胞やアストロサイトの非定型分泌経路、アストロサイトによる低体温制御、さらに神経炎症を引き起こす翻訳後修飾の解析やスクリーニングシステムの開発などに取り組んでいます。これらのプロジェクトを通して、発達期におけるニューロン・グリア相互作用の作動原理を解明し、これまで報告されていない、新しい生命現象を発見したいと考えています。分子生物学、細胞生物学的アプローチから、グリア細胞の新しいメカニズムを解明したいという意欲的な学生を歓迎します。
血管マトリクス生物学
私たちの研究室では血管生物学とマトリックス生物学を基軸として、発生~恒常性維持~老化における細胞外環境因子(細胞外マトリックスやメカニカルストレス、低酸素など)を同定し、応答する細胞との相互作用を分子レベルで明らかにすることを目指しています。また、さまざまな疾患でどのように細胞外環境が変化し、細胞の挙動や性質に影響を与えるかを解明し、介入ポイントと介入方法を見出し、臨床応用へと繋げます。扱うシステムはマウスですが、心血管・腎臓・皮膚・骨など多様な組織を研究しています。今後は、脳血管と脳の構築に関わる細胞外マトリックスの探索や、血管や皮膚などの組織幹細胞を維持するニッチ因子の同定などを行なっていきたいと考えています。
再生幹細胞生物学
組織幹細胞の臨床応用に向けた機能解析
私たちの研究室では、治療効果の高い組織幹細胞の臨床応用を目標に再生医学研究を行っています。組織幹細胞は生体内に存在し、再生能力や多様な細胞に分化する能力を有しています。当研究室では主に間葉系幹細胞(MSC)と血管内皮前駆細胞(EPC)を用いて研究を行っています。しかしながら、幹細胞移植の治療効果は、年齢・病状・薬物治療歴等の様々な患者背景に左右されます。よって当研究室では、組織幹細胞のポテンシャルを最大限引き出すことを目的として、患者背景の違いが組織幹細胞に及ぼす影響および加齢による影響について詳細な分子メカニズムの解明を行っています。
バイオインフォマティクス
生命医学研究においてビッグデータ・情報解析の重要性はかつてないほど増しています。本研究室では、複雑多様な大規模生命データから意味を見出し、解釈する方法論・情報技術を研究しています。大きなテーマは、(1)ゲノム配列の機能の解釈・予測技術の開発、(2)1細胞/空間オミクスデータの解析技術の開発、(3)生命科学研究の自動化(ラボラトリーオートメーション)、(4)医療データ解析、があります。また、バイオインフォマティクス、プログラミング、情報科学、統計科学、応用数学を駆使し、疾患研究などの応用も進めていきます。様々なバックグラウンドの学生が医学・生命科学とインフォマティクスの融合を志せるよう、研究立案から情報解析技術、論文作成まで指導します。
IT創薬・ケミカルバイオロジー
タンパク質立体構造解析技術の発展により、構造生物学データを起点とした創薬支援研究が本格的に注目されています。しかし、構造生物学データの中には、特定の条件や環境に依存した構造情報により、そのままのデータでは創薬へ適用が難しいとされています。計算機を活用したインシリコ技術は、このような問題を補完できる技術であり、構造生物データと融合させることで、より高度な創薬支援研究が実現可能となります。研究室では、創薬標的タンパク質を中心に、分子モデリング、分子シミュレーション、ケモインフォマティクス、ケミカルバイオロジーの要素技術に基づいた、実用性の高いインシリコ創薬の支援研究や高度化研究のテーマを学生に設定し、学会発表や論文作成を指導いたします。
国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)柳沢/船戸研究室
私たちは人生のおおよそ三分の一を眠って過ごします。この“眠る” という現象はいまだにきちんとメカニズムや役割を説明できない現象です。また、様々な原因でこの睡眠が乱される=睡眠障害がおこることも現代社会で大きな問題になっています。 覚醒制御を担う生理活性ペプチド“オレキシン” の発見を契機に睡眠研究は飛躍的に理解が進みましたが、なぜ睡眠が必要なのか、近過去の睡眠履歴を参照するホメオスタシス制御のメカニズムなど、睡眠に関する謎はまだ多く残っています。我々は睡眠の本質を探っていくため、表現型から遺伝子道程を目指すフォワードジェネティクスやin vivo imagingなど、最新鋭の機器・手法を取り入れた生化学・生理学的アプローチによる研究を展開しています。
国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)ラザルス /大石研究室
当研究室では、脳が睡眠や覚醒意識を調節するための細胞・神経基盤の理解に取り組んでいます。動物の行動や脳波における特定の神経集団の機能を調べるため、神経活動操作(光遺伝学・化学遺伝学・光薬理学)やin vivoイメージング(光ファイバ内視鏡)などを活用しています。また、一細胞遺伝子解析もしくは空間的遺伝子解析により細胞・分子レベルでの睡眠と免疫系のクロストークの理解を試みています。現在までに、なぜコーヒーで目が覚めるのか、なぜ退屈な時に眠くなるのか、どのようにレム睡眠不足がジャンクフードへの欲求を増加させるかなどについて、成果を出してきました。
国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)坂口研究室
脳の成長に伴いその可塑性は組織・細胞からシナプスへと力点が遷移する.一方で海馬の歯状回では例外的にごく僅かのニューロンが成熟後の脳でも新生し続ける.我々は、この新生ニューロンが学習後のレム睡眠時に活動を減少させること、そして驚くべきことにそのごく僅かな活動が記憶の固定化に必要であることを見出した(Kumarら,Neuron, 2020).現在坂口研究室では成体脳が持つ細胞可塑性を基盤とした、記憶回路の再編性のメカニズムを研究している.さらにこれらの研究成果を応用するべく、患者を対象とした特定臨床研究を進めている。
国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)グリーン/フォクト研究室
私たちの脳はその正常な機能のために毎晩の睡眠を必要としています。実は、寝ている時の脳も活動しており、その活動の仕方が起きている時とは全く違うことが明らかになってきました。私たちの研究室では、それらの異なる脳の活動がどんなメカニズムによって作り出されるのか、そして朝すっきりと目覚めるために何をしているのかについて知りたいのです。私たちは睡眠中および覚醒中のマウスの脳のニューロンの一群、あるいは一つひとつのニューロンからのシグナルを機能的イメージングや電気生理学的な方法を用いてデータを取得します。それらのパターンの違いを検出し、睡眠時と覚醒時においてニューロン同士のコミュニケーションがどのように変化するかを解析しています。それとは別に、私たちはヒトにもマウスにも適用できる新しい脳波解析法も開発しています。この新しい方法により被験者の脳が覚醒しているのか、眠いのか、良い睡眠がとれたのか、それらが定量的に判定できることを目指しています。
代謝内分泌学・脂質生物学研究室
生命の根源:エネルギー代謝を、特に脂質の量、質、センシングに視点をおいて、細胞や臓器の増殖、分化、ストレス応答、炎症、細胞死、オートファジー、幹細胞機能など、あらゆる生命現象の紐解きに挑んでいます。発生工学動物を駆使して、代謝、内分泌にとどまらず、がん、免疫、炎症、脳神経疾患など様々な疾患病態を、様々な臓器で解析、俯瞰、統合しながら生体としての新しい理念、治療を開発します。また最新鋭の顕微鏡技術やバイオインフォマティクスなどデジタルトランスフォーメーションを活用して、オルガネラの形態と機能を可視化し、生命のありようの実感に迫ります。研究室では、一人一人の学生ごとに独立したテーマを決めて、動物 (in vivo),細胞 (in vitro), in silico 実験を並行して多様な経験をしてもらいます。脂質の多様性から従来の分子生物学セントラルドグマを超えた生命の神秘に触れ、未知の玉葱の皮むきを楽しみましょう。
膠原病リウマチアレルギー内科学
膠原病や関節リウマチ、アレルギーなどの自己免疫疾患の診断・治療は劇的な変化を遂げています。しかしながら、根本的な病因論が未だ十分でなく、病態に対しての根治的治療はありません。本研究室では、それらの疾患に対して、我々独自の疾患動物モデル、及びヒト検体を統合的に検証することで、病態論から免疫システム自体を見直す研究を進め、病態本体制御へのアプローチを行っています。また、研究論文抄読会や研究進達meetingにも参加してもらい、免疫学及びそれが関与する疾患群の最新論を討議しています。将来の自己免疫疾患の病態制御及び治癒を可能にする、夢を持った研究者を歓迎いたします。
氏名 | ホームページ | 所属部局・職名 | 現在の専門・学位 |
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永田 毅 | ‐ | みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社情報コミュニケーション部マネージャー | |
館野 浩章 | ‐ | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
氏名 | ホームページ | 所属部局・職名 | 現在の専門・学位 |
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Aristidis Moustakas | ‐ | Uppsala University | |
Arthur D.Lander | ‐ | University of California Irvine | |
Bernd Fleischmann | ‐ | ボン大学 Professor and Director,Institute of Physiolology I | |
Carl-Henrik Heldin | ‐ | ウプサラ大学教授 | |
Hong-Gang Wang | ‐ | Pennsylvania State University College of Medicine | |
Joseph S.Takahashi | ‐ | UT (University of Texas) Southwestern Medical Center | |
Seong-Jin Kim | ‐ | Research Institute of GILO Foundation | |
Lewis L. Lanier | ‐ | カリフォルニア大学サンフランシスコ校教授微生物免疫学部長 | |
Michael Kann | ‐ | ヨーテボリ大学 | |
Peter ten Dijke | ‐ | Leiden University | |
Tsai-Kun Li | ‐ | National Taiwan University | |
横森 馨子 | ‐ | University of California Irvine |