自分の専門でもない領域の科目を
私が担当していた科目「適正技術教育」は、HBPより先に私と大根田先生が取り組んでいた別の事業において発案した科目でした。現在の学長の永田先生からMITのD—labやスタンフォードのD-schoolの要素を教育に取り入れてみては、というアドバイスをもとにプログラム骨子を作成していました。残念ながらその事業には落選したのですが、この「適正技術教育」をHBPに入れましょうということになったのです。当時、文部科学省へは、HBPが掲げる「突破力」と「完結力」を、いわゆる研究以外の能力養成として、「適正技術教育」と「アントレプレナーシップ」で養うという文脈で申請していました。その後、「適正技術教育」の担当教員として指名されたのですが、自分の専門でもない領域の科目を担当するのも初めてで、かつ「適正技術教育」のイメージもわかなかったので、インターネットで「適正技術教育」と検索したところ、適正技術を生かして途上国の課題を解決することを目的としたSee-D Contestを発見しました。代表の遠藤さんに相談を持ちかけ、まずはSee-D Contestに参加してみようという運びとなりました。HBPの科目として開講した1年目には学生とともに私も一般の参加者として学びました。とにかく、参加しながらやり方を模索するような感じでした。今でもそうなのですが、この「適正技術教育」は自分が教えるというよりは、学生が学べる場所を作ってあげるというイメージですね。それで、HBP3年目までは学外企画のSee-D Contestへの参加を基盤にした科目運営を行っていましたが、4年目からは自主運営に切り替えました。
ひとつ今後の運営に関してですが、HBPにはこの「適正技術教育」以外にも研究以外の多くの要素が含まれていて、その分関わる教職員も多いですが、例えばHBPが学内外から受けた評価をどのように関わった教職員に還元されるのか、この点はこれから大学全体で取り組むべき課題だと思います。
自身も参加し学んだSee-D Contestにて
【適正技術教育】
地球航海型学修で掲げている、地球規模課題を解決するために必要な能力を養成する教育プログラムを科目として実現するために、既存の枠組みにはない新たな課題解決型プログラムをデザインする必要があった。
適正技術教育では、学生が発展途上国や国内の課題先進地域における現地のニーズ、文化、環境、人などを考慮した上で、現地の人に必要とされる最善の技術を創出する社会課題発見・解決型ラーニングを実践。これからの社会で必要とされる問題解決力、現場対応力、起業力を身につける。
失敗や苦労の経験を持つ人を
はもともと日立製作所で、大学や製薬企業向けの研究開発の代行ビジネスを行っていました。日立が持つ遺伝子やタンパク質に関する網羅的解析技術で得たデータに対し、社内のIT技術を活用し、解釈した結果をクライアントにお返ししました。つまりこのビジネスは、「ものを作るのではなく、知的財産や解釈されたデータを作る」日立としては極めてユニークなビジネスユニットでした。しかし、実際のところ8年間で黒字化することができずに失敗しました。初めの自己紹介の際には学生にこの失敗談を必ずしています。
私は、HBP発足当時のプログラムリーダーから、「使える人を育てる」ための教育に協力して欲しいと呼ばれてきました。HBPは単に知識を備えたエキスパートではなく、「使えるリーダーの育成」が目指すところなのです。即ちHBPは知識を詰め込むだけではなく、その知識を咀嚼し社会に還元することができる人材を育成するためのプログラムです。そのため、私が担当している科目「アントレプレナーシップ(起業家マインド育成)」は、このプログラムに所属する学生にとっては当たり前の科目なのです。この科目では、「こうして私は起業し、ビジネスに成功した」という成功者の自慢話ではなく、苦労している現役のベンチャー企業社長(起業家)や、過去に自分で会社を潰した経験のある人など、私も含めて、失敗や苦労の経験を持つ人を講師にした「リアリスティックで実務的」な授業コンテンツを提供しています。
「アントレプレナーシップ」における学生の事業提案
【アントレプレナーシップ(起業家精神)】
HBPが掲げる人材養成目標でもある「専門力に裏付けされた完結力の育成」を実現するためには、修得した知識をプロジェクトなどを通じて実際に活用することができる環境を提供する必要があり、科目化には経験豊富な教員も必要であった。
外部からの招聘を経て、研究の成果をビジネスに結びつけ、起業するための基礎知識とスキルを学ぶ「アントレプレナーシップ(起業家精神)」を開講。リーダーとして予測困難な状況、未知の環境に打ち勝つための思考法実践形式で修得する。