柳沢正史先生

そういうことをやったことがある人が、私は好きです

私は勇気のある人が好きですね。もう少し詳しく言うと、専門的度胸のある人が好きです。もともとの言葉はTechnical Courage、僕のテキサス時代の師匠のジョー・ゴールドスタインが考えた言葉ですが、私がこれを専門的度胸と訳しました。説明するのは難しいのですが、要するに自分が一度問題を設定したら、専門分野関係なくそれに向かって何でもやってやろうという、一種の度胸です。昨今の研究者の専門分野というのはとても細分化しており、自分の専門分野にいると快適ですし、実際そういうタイプの人が多いです。そのような中、専門的度胸のある人というのは、必要なら何でもやるぞという、そのような態度・姿勢を持つ人のことです。今まで取り組んでいた専門分野をガラッと変える、例えば、自分の父親の話にはなりますが、工学部出身で計測器メーカーに勤めるエンジニアが、抱えていた課題を解決するために、基礎医学分野に転じて医学の道に進む、というイメージです。それがきまぐれではなくて、確かな理由があって。そういうことをやったことがある人が、私は好きですね。まだ研究経験が少ない学生に、そこまで求めることは一般的には難しいと思いますが、HBPが学生にそのような機会を提供できる可能性はあるかもしれません。

対話を通じた学生へのアドバイス

【専門性と分野横断】

地球規模で見られる健康の脅威を制御するためには、生物学をはじめとする多分野の協業が必要であり、様々な学問分野を横断した複合的方法論を駆使して社会の創造を先導できる国際的トップリーダーを養成する必要があった。

HBPでは、生命科学、医学、計算科学、物質科学を横断した複合的方法論を駆使して、ヒトの生命の維持、適応、継承のメカニズムを理解し、これらに関する研究力、専門力を獲得した上で、ヒトが人らしく生きる社会の創造を先導できるリーダーを養成するプログラムデザインを編成。

本多隆利

若手研究者にとって、勇気をもらえる言葉

HBPではグローバルリーダーを育成するということを掲げていますが、HBPでは複数の先生から指導を受けられる環境にある中、私にとっては指導教官の柳沢先生がリーダー像に最もしっくりきます。先生は長く過ごされた米国での研究経験をベースに、この国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)を立ち上げ、「睡眠」の制御機構の解明するというビジョンをもとに、世界中から同じ意志をもった研究者を集めてきました。また先生ご自身も現役の研究者として真っ向から睡眠の謎に挑み続けています。この研究所が1つのプラットフォームとなり、基礎研究から臨床応用まで、多くのコラボレーションを生み、学術分野そのものを大きく前進させる上で機能しています。そういった物事を俯瞰的にみる大局観をもった先生の元で直接ご指導いただけたということを光栄に思い、感謝しています。

先生は座右の銘の1つとして「人と違うことを恐れるな」とおっしゃっています。研究を突き詰めていくと、自然に人と違ってきて、むしろ、人と違うことがその研究者の味になる。人と違うからこそ新しい価値を生み、その価値を世の中に提供することができる。逆に言うと、人と違わなければといけないと。先生の言う座右の銘は、一見難しいことを言っているようですが、逆にそれが達成されないと一流の研究者にはなれない、当たり前のことでもあります。それを実現することは難しいとも感じますが、様々な研究経験を通じて、独自性を探る若手研究者にとって、勇気をもらえる言葉だと思います。

送別会にて、笑顔の恩師と

【複数教員指導制】

HBPにおける新たな取り組みを実現するためには、学際的・国際的な産学官の教員団が必要となり、教員団の指導によって学生が最終的に取得する学の質を保証するためにも、教員の質が国際的に保証される必要があった。

参加する海外の連携校と教育指導法に関する連絡調整会議を立ち上げ、指導法のスキルアップを図っている。さらに、教員の教育研究における評価を先鋭化させるために、企業出身教員および学生からのピアレビューを含めた教育評価などを実施。